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On the way always

日々の記録と、思うこと徒然。自分のために綴ってます。

Golden summer

「わたしって、何年何組だったっけ?」


夏休みの宿題のプリント記名欄に鉛筆を走らせながら、娘が問い掛ける。



長い長い今年の夏が、終わろうとしている。

お気に入りの珈琲カップ。
何十年も前に遠い外国で生まれ、いまはわたしの手元で、つめたくなった珈琲をホールドしてくれている。

真夏の花々や果実が、彩り豊かにソーサーの縁周りに描かれている。

だけど、最後にカップ全体の色をまとめているのは、夏の終わりを思わせる落ち着いた黄金色のトーン。

このカップには、

「Golden Summer」

そんな名前がつけられていることを、ふと思い出す。

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わたしの夏の始まりは、6月の終わり。
タイ最北部、辺境の街からだった。

湿り気を帯びて留まっていた熱帯の空気が、そのひとの訪れとともに巻き起こった大きな風で、ひと息に洗い流される。

それが合図だった。


いつも目に映る何かが何かを報らせてくれた。
前兆を運んできた。

それは私の子どもたちだったこともあれば、

何度も何度も目の前に現れる虹でもあった。

ふと本棚から手にとってみたくなった本の、
見開いて最初に目に飛び込んできた一節だったこともあれば、

夕暮れ時の光。奇跡みたいな黄金色。

弾かれたギターの弦からこぼれた丸い音の粒が、
遠く空間にとけさり消えていく瞬間。

かつて愛していたのに忘れてしまった歌が鮮烈に思い出される。

漆黒の夜空から流れ落ちる一筋の星だったこともあった。


わたしがそのひとの瞳を覗きこむたび
その強さや輝きは 日に日に、
やさしさや温かさや
果てのないような広がりと深さを増していく


そのひとがわたしの瞳を覗き込むたび
自然と笑みはあふれて、
まっすぐに瞳の奥を見据え返しては言葉を失い、
自分が女になっていくことへの安堵が増していく



なにかを強く確信しては、
その確信が確かなものなのかどうか
疑いたくなるようなできことが なんども
確信に覆いかぶさるかのように起きた

でもそこから、
自分のことをひとつも無視しない覚悟で、
自分を、世界を見つめていると、
思い出す。

世界にはどうしようもなく、希望しかないということ。

「それでいいんだよ、よくがんばった。
もう大丈夫。」

温かく包み込んでくれる夏の海のような懐に、
その生命の美しい輝きに、
わたしは世界に対する深い安堵を知る。

ともに手をつなぎ風に当たれば、
強さを増した確信の向こう側では、
いつも奇跡みたいな出来事が待っていた。


私の夏は、そういう夏だった。

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速度が速い
話が早い

粒子はつねに濃密で
単純なのに洗練されている

何をするでもなく
ただ共に在る、
それだけで開いていく

美しい景色のなかに
身を置いているときのような
途方もないような安堵の感

揺蕩っていたものには輪郭が生まれ
強い形をもつものにはひろがりが生まれる

なにもないのに
確かにそこに在る
世界が完全になっていく夏

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いま、この瞬間を重ねていく。

これを続けていく、
ただそうやって、生きていく。

この果てしなく美しい世界で、
わたしはあなたを目撃していたい。
あなたにわたしを目撃してほしい。

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